キスしてほしい(R-18)

「乱交パーティー?」
ランク戦の休憩時間に太刀川慶に呼び止められ、一緒に昼飯をどうだと誘われ入ったラーメン屋での迅悠一の第一声がそれだった。10.5インチのタブレットに大写しになっている大人数の裸の人間によるまぐわいの画像、そこに写っている半分はおよそ見知った顔、つまりボーダーの人間で構成されていた。コラージュにしては出来過ぎているなと思った。
「また今度やるんだよ。迅もどうかなと思って」
「また忍田さんに怒られないか?」
「あの人はもう呆れてるよ。俺が淫乱なのは今に始まったことじゃないし、それにあの人の趣味だって褒められたもんじゃないだろ」
チャーシュー麺のチャーシューの一枚を手繰る太刀川の指と唇がいやに官能的で、迅はそれをぼうっと見つめつつ水を飲み、確かにな、と思う。
忍田と太刀川は交際している。それはボーダー内では公然の秘密というやつになっている。忍田の趣味を詳細に知ったのは迅が太刀川に身体を求められ、それに仕方なしに応じ、明くる日忍田家に招かれ、うちの犬がすまなかったと忍田に陳謝されたのがきっかけだった。ソファに座る忍田の横で太刀川は地べたに座り込み、前に手をつき犬のようにお座りをしていた。大きめのワイシャツ一枚と赤い棘付きの首輪だけを身につけている、犬。猛犬注意。
「太刀川さん」
「何」
「なんでおれ誘おうと思ったの」
「ご無沙汰っぽそうだったから?」
「ははは」
「彼氏忙しそうだもんな。お前も相当だろうけど、あいつよりは自由がきくだろ」
「まあね」
「それで?返事は?」
「またLINEします」
「はいはい」

嵐山准と17の頃から付き合い出してセックスした回数が両手で足りることに気付いて迅は、まあ普通だろ、と思った。色狂いでもあるまいに。そうやって異常な提案をしてきた好敵手と自分とを切り分けながらラーメン屋で見せられた写真を思い出してウップとちょっと吐きそうになった。肌色の中で知った顔がいくつも見切れていて、どうして未来視が働かなかったのだろうと考えてそりゃ重要度は低いからだった。戦争には関係がない余暇の、狂った、どうでもいい、催しである。ボーダー本部でそいつらと顔を見合わせてそれが予知できていたところで何になろう。切り捨てていい話だった。未来として読めなかろうと現実は無慈悲に襲い来るというだけの話で、太刀川は迅に二度目のセックスとして乱交パーティーを迅に持ちかけて、吐きそうだった。玉狛支部に帰る途中で軽く吐いた。噛みきれていなかった麺がドゥル、と喉を通り抜けた。あらしやま、と祈るように思った。

夜のうちに降った雨で迅の吐瀉物は流されていてそこをコロが快活に走る。嵐山家の犬の散歩に付き合った回数の方が嵐山とセックスした回数より当たり前に多い。当たり前だろ。
「目にクマ出来てるぞ。ちゃんと寝てるのか?」
「あー、三時間?くらい?」
「無理に付き合わなくてもいいんだぞ?この時間を睡眠にあてれば」
「おれのグチャグチャの生活リズムを正してくれてありがた〜いと思ってるよ。なあコロさん」
わふ、と人懐こい顔をして迅を見上げてくる犬。嵐山に似て賢い犬だ。以前噛み付いてきたバカ犬の顔を思い出してしまった。
「あー、嵐山さん」
「コロ、うんちか?」
「嵐山さん?」
「なんだ迅。うんちか?」
「うんちじゃない。いやうんちだけど。うんちじゃなくてね」
「我慢できないか?」
「うんちじゃねえっつったよね?太刀川さんにさ、おれが襲われたときにさ、おまえどう思ったつったっけ」
「……『最低だな。忘れろ』」
強めの風が吹いて、朝露が迅の足首を濡らした。犬の排泄物をポリ袋に片付けてから草むらの中で嵐山はしゃがんだまま迅の顔を見た。
「太刀川さんセックス上手かったよ」
「そうか」
「それでまた誘われててさ」
「……寝るのか?上手かったから?」
「うん」
「そうか。コロいっぱい出たな、行こうか」
二人と一匹で歩いていて、嵐山はわりといつも通りの表情をしていて、こうやって嵐山の日常は続いていくんだなと迅は思った。
LINEで太刀川に返事をした。

「迅さん」
高級ホテルのロビーで太刀川と待ち合わせているはずだったが降りて来たのは犬飼澄晴だった。
「もうみんな始めちゃってて。太刀川さんも全裸なもんだから代わりに頼むって言われて」
「いや遅れた俺が悪いよ。ごめんね、犬飼もお取り込み中だった?」
「ははは、俺は見学中だったんで」
という割にジーパンにTシャツ一枚なので脱ぎかけてはいたのだろう。普段犬飼が無地Tシャツ一枚でお洒落を済ませているところを見たことがない。
エレベーターがそれなりの階まで辿り着き、明るい廊下を少し歩いてすぐ開いたドアの向こうから聞こえた声は予想通り、いや予知通りのものだった。
「迅さんご到着でーす」
「こんちわ〜」
「うわ迅さんだ」
「マジで来たんすか迅さん」
「来たよ。来るわよ」
この集まりのホストがまず広い部屋のソファのところでめちゃくちゃになっているらしく、でかい喘ぎ声の出所はそこだった。挿入は風間、横に出水。
「太刀川、迅来たぞ起きろ」
「っ、やだ、ぬかないで、やぁ、かざまさ……」
「抜かないであげて、風間さん。出水もいいよ。そのまま」
赤子に玩具を与えるように勃起した陰茎を太刀川に握らせていた出水は一瞬迅の方に向き直ろうとしたが迅の言葉でむしろ太刀川と距離を詰めた。出水のモノは太刀川の眼前に迫り、それを舐めとろうと太刀川は顎を傾ける。
「挨拶くらいしろ太刀川」
「いいって」
プレイに巻き込まれている。
「あ、じん…………おつかれ」
ペニス越しに視線をやられる。熱く潤んだ目。
「どうも」
風間の太刀川へのピストンが再開され、結構な声量の喘ぎ声が響き渡る。飛ぶの早すぎないか?
部屋の奥の方へ入るとまたひとつグループが出来ている。こっちの声は控えめだ。甘い空気が流れてくる。
「辻ちゃんただいま」
「いぬかいせんぱぁい……」
これまた蕩けた顔で当真の陰茎を受け止めている辻に犬飼は寄り添い、頭を撫でる。
「気持ちいい?」
「きもちい、です……せんぱい」
「んー?」
「さわ、って」
頭にやっていた手を赤らんだ頬までするりと撫で下ろすだけで辻は堪らないような顔をして、目を閉じてびくびくと震える。親指でなぞる薄い唇からは熱い息が漏れていて、そこから舌がれろ、と出てくる。犬飼は目を細めてそれを眺めて、頬から手を離した。
「穂刈、辻ちゃん乳首弱いから、触ってあげて」
「おう」
「や、ちが……あっ、っん、あぁあ」

「可愛いでしょ、おれの彼氏」
「可愛いねえ。あ、待って犬飼」
「え?あっ」
流れで風呂場に行き脱衣所から洗い場に入ると水上と隠岐がラブラブしていたので、ごゆっくり、と言って閉めた。隠岐の関西訛りの甘い声と水の音が混ざって聞いてるだけでも腰にくる。水上は腰を送りながら馬鹿みたいにおき、おき、と繰り返している。
「いやまあシャワーは浴びてきたんだけどさ」
「なんだよかった。とりあえずおれでいいです?」
ふたり服を脱ぎながら話しているとどこからか米屋がひょいと出てきた。既に全裸だ。
「あ!オレもオレも〜迅さんのちんこ舐めたい」
「陽介か〜まいっか。おれも舐めるよ」
「まいっかって何すか。いいすよオレ、フェラ好きなんで。人のしゃぶってたら勝手に勃つんで」
じゃあ犬飼のでもしゃぶるか、と犬飼の方に向き直った途端未来が見えて「キスする?」「はい」ベッドに押し倒された。キスをされた。少々不本意だったので脚をばたつかせてみるが米屋によって押さえつけられた。半勃ちじゃん迅さん。ちょっと興奮してた?ぴと、と濡れた感触が先端にあたってそこからはもう駄目だった。米屋の舌が陰茎全体を這いずり回り、そんな中でもまだ犬飼からのキスは続いている。キスを続けられながら尻に手を伸ばされて、腰が震える。ベッドから少し尻を浮かされて犬飼の指が尻の割れ目をなぞりそこにたどり着く。いい加減息が苦しい。ふは、と息継ぎをした瞬間指先を入れられて、あ、と声が出てしまった。
「迅さん、今日は特別ゲストなんだから、なんにもしなくていいんですよ」
「オレらに任せといてくださいよ、ね?」
前を扱かれながら、後ろにゆっくりと入れられていく細い指の感触を追う。こり、と精確に前立腺を捏ねられ、はくはくと必死で呼吸をする。もう頷くしかなかった。

「ほんとにご無沙汰なんですね、ここ」
「……よくわかるね」
「ひとりでするときも、指しか入れてない?玩具くらい買えばいいのに」
「やだよ恥ずかしい……あ、あ、先っぽ」
玩具なんて、メガネくんに家探しでもされたらどうする。まあ中3だし、そういうお年頃だし、いやでもこんな格好、あいつらには。絶対。
「どっち?ちんぽ?」
「ちんこ……あ、っう」
米屋の舌使いから逃げをうつと尻の穴に入った指がより深いところまでくる。わざとのように前立腺を掠めてくる、二本の指。シーツに爪をたてて耐え忍ぶ。耳に犬飼の吐息がかかる。
「いいとこ触ってほしいですか?」
こくこくと頷く。耳たぶを噛まれる。それじゃ駄目だとでも言うのだろうか。
「ほしい、きもちよく、なりたい………っあ、あ」
「米屋、一回イかせてやって」
「了解」
「あ、っあ、やぁああっ、あ、りょうほう、だめ……っ、あ、あ……っ、いく、いくいくいく、でる……っ」
そうしてあっという間にイッた。大量に出た精液は米屋が口で受け止めたらしく、舌の上に溜まったものを見せびらかした後飲み下すのを呆然と見た。
「濃いの出たッスね♡ごちそうさま♡」
「……ん、どうも」
「じーんさん、ぼーっとしてないで、こっち」
尻に硬いものを押しつけられている。ぐちゃぐちゃにされている未来が見える。こんなの未来予知でもなんでもない。願望と区別がつかない。出来るだけ早く頭を真っ白にしたくて後輩達に強請ることも考えてみたけれど恥が上回って要するに、流れに身を任せるしか、ない。
「挿れていいですか」
はやく、とは言えずに、いいよ、と言った。
尻たぶを広げられて犬飼の尖端が穴を押し広げて、入っていく。カリ首まで入った。
「迅さん、嵐山さん以外にハメられたことないんでしょ」
「そ、んなこと、ない」
はやく。はやくいれてほしい。奥まで突いてほしい。中の粘膜を擦ってぐちゃぐちゃにしてほしい。くるしい。浅い息をつきながらやっとで会話をする。米屋が口を挟む。
「え?あれ?太刀川さんとは?」
「太刀川さんがタチやるわけないだろ。ネコ川さんなんだから」
「へえ。じゃあ迅さんタチも出来るんすね」
出来ない。出来ないはずのものをあの人が勝手にやっただけだ。勝手にフェラされて勝手に突っ込まされて勝手に腰を振られて。結局おれの無駄に疼いた尻は嵐山にも放っておかれてかわいそう。かわいそうだからはやく。
「いいから、はやく……」
「慣らしてるんですよ。ゆっくり、いれますから……」
「あ、ぁ………いぬか……い」
米屋は迅の髪の毛をさらさらと指で梳かしながら、迅を慈母の表情で見つめている。いいこいいこ。かわいそうなこ。
そうして犬飼のすべてが迅の中に入った。
「あーあ。浮気ですよ迅さん。ボーダーの顔専用まんこだったのに」
「うるさい」
「声震えてますよ。一丁前に傷ついてんですか?嫌なら断ればよかったんですよ。太刀川さんにしたって今回にしたって。そうやってあんたみんなのことばっか考えて自分の気持ちないがしろにして流して流されてやけくそみたいにこんな、嵐山さんかわいそうでしょ」
「犬飼先輩、ちょっと」
「あんたみたいな男のこと大事にしてる嵐山さんがかわいそうだよ」
言葉に反して、犬飼はゆっくりとした腰使いで迅の中を責めて、そのおかげで迅は良くも悪くも犬飼の言葉をしっかりと聞くことができた。その通りだなと思った。
「……すみません、言い過ぎました」
「いいよ、いいから、うごいて……キスして」
そうやってふたりまるで恋人同士みたいにキスをした。お互いに相手がいるのに。馬鹿みたいだ。
「ふ、ん………陽介」
「は!?はい、なんでしょ」
「逃げようとしてたろお前」
「ははは」
「ちゃんとおれのこと気持ちよくしてよ……先輩命令」
「……はい」
それからはちゃんとセックスをした。米屋に脇を舐められたり乳首を吸われたりしながら犬飼がしつこく前立腺を擦るのにひいひい喘がされた。あられもない声につられて観客が集まってきて恥ずかしさにキュウと入り口が締まった。
「迅さん、みんな見てますよ。迅さんのやらしいとこ見てみんな興奮してる」
米屋が耳元で楽しそうに囁く。涙で視界がぶれて何も見えない。ふうふうと息をしながら犬飼の責めを受け入れることしか出来ずにいる。体位を変えられて背中にびりびりと衝撃が走って、射精した。
「いぬ、か……い、これ、やぁ………」
背面座位。結合部がローションで泡立っているのも射精したばかりのものが精液や先走りに濡れそぼり萎えているのも全部丸見えで、迅が嫌というのも聞かずに犬飼は腰を使い始めた。

「迅さんやば、エロ……」
「どうしよ俺また勃ってきた」
「犬飼キレてんなこれ、迅さん何言ったん」
「何も言ってないんだなこれが」
「米屋お前結局置いてきぼりじゃん、かわいそ」
「うっせ」
「おい辻、お前の彼氏さんやべーぞ、見とけ見とけ」
「でもなんか、わかるな」
「え?」
「あーね、ふたりとも相手の腹を読むたちっつーか」
「端的に言うと、相性が悪い」

「あ、っやっあ、あ、あん、あっ、いぬか……いぬかい、こわい、やだぁ、あっあ、あん、らめ、これらめ、やぁあっ、あん、んっ、や、みないれ、みないれぇ……っ」
「好きな体位」
「っ、なに……」
「好きな体位、言って。それで中に出すから」
わからない。数えられる程しかしたことがないのに好きもなにもあるか。嵐山はこんなこと言わない。こんなことしない。嵐山はもっと優しくてたくさん抱きしめてくれてこんなさみしくてかなしくて恥ずかしくて消えたくなるようなことなんか。
「せ……い」
「聞こえない」
「かお、みたい……これ、さみしい、ぎゅって、したい……」
犬飼は、ふ、と迅の背後で笑って、また無理矢理体勢を変えた。一度抜けたものをすぐ挿しなおして迅の願い通りの正常位にした。
「あのさあ迅さん。そういうのは嵐山さんに頼めよ」
パン、と音がするくらい強く腰を打ちつけられてそこからはとめどなく音がしてひっきりなしに喘いだ。腕を伸ばすと犬飼はおとなしく抱きしめられてはくれたけれど腰使いがあんまりにも乱暴で身体がもたなくてすぐにシーツの上に戻った。
「あ、あん、あっ、んぁ、や、はげし……ぃ、こわれりゅ、こわれぅ、おく、おくらめ、こわれひゃ……や、いいっ、いい、りゃめ、おくきもちい……い、いく、いく、いくからぁっ、らめ、またいっちゃ、あ……っ」
「迅さん、出しますよ」
「っ、や、あ、あ、あっ、あぁあああ……っ」
あたたかいものが腹の奥でぶわりと広がって、犬飼のものを包む粘膜が痙攣した。がくがく震える肩とびくびく震える背中とぎゅうぎゅう締め付ける尻の穴があって一滴も残さず迅の身体は犬飼の精液を搾り取った。目の前がちかちか光る。
萎えたものを抜かれてもしばらく痙攣はおさまらない。
「……次、誰いきます?」
犬飼が振り返り流し目を送る先には一段落ついて観客と化していた数人がいてその誰もが辺りを見回してどよめいた。
「このひと今日ぐちゃぐちゃにされたくて来たんですって。おれひとりのザーメンじゃ足りないって。ほら」
気を失いかけている迅の脚を犬飼はがばりと開いてひくついている穴を周囲に見せつけた。

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