焚火(R-18)

そうだ、全部燃やそう。放火魔のごとき妄想が俺の脳内を支配して、これは多分病気なのだろうと思った。精神安定剤代わりに乳酸菌飲料を飲んでぐっすり寝て誤魔化すか、いや、セックスがしたい。セックスがしたいと思い、スマホの画面をひたすら擦り続ける。これはいつものルーティンで、全部燃やそうと思ったとき、つまりやりきれなくなったとき、絶望したとき、犯罪を犯してしまいそうなほどどうしようもない気持ちになったとき、助けてくれと叫ぶ代わりにスマホを擦った。つまり文字を打った。
 今晩どう?

「修くん」
「相川さん。どうも、こんばんは」
「こんばんは」
 インターネットの片隅の掲示板で知り合った修くんと会うのはこれが初めてではなく、何度か会っている。
 15歳。掲示板には19歳と書いてあったが嘘だった。嘘だろうなと思ってメッセージを送った俺は紛れもなく犯罪者だ。しかし通報するような素振りは今のところ見せていない。自首もする気がない。宙ぶらりんの犯罪者だ。
まだ顔つきも幼く、細いばかりの身体は、俺の趣味にはこれ以上なく合っていた。最初は真面目そうな眼鏡の子が何故こんなことを、嘆かわしい、と思ったものだったが、理由は聞かない。お金は誰だってほしいだろう。
 いつものラブホテルで逢瀬を交わす。特に喋らない無言のエレベーター。部屋に着いたらまず順番にシャワーを浴びる。それからフェラチオをしてもらう。いつもの流れだ。汚したらいけないので、眼鏡は外してもらう。
「眼鏡、似合ってるけどコンタクトにしないの?モテるかもよ」
「うーん……いえ、もう分身みたいになってますから。『メガネくん』なんてあだ名で呼ばれたりもしますし」
「あはは、メガネくんね。わかるわかる、そんな感じするわ。でも眼鏡あってもなくても修くんはかわいいよ。俺好きだな」
「そんなこと言ったって何も出ませんよ」
「俺の精子は出るけど」
「……相川さん、結構ばかですよね」
 笑いもせずに俺のちんこを擦る修くんはかわいい。照れ隠しが上手い子だ。大きくなり始めたちんこに舌を伸ばして、舐める。次第に小さな口が大きく広げられて、先端が口に含まれる。手取り足取り教えてやった甲斐があるというものだ。
「気持ちいいよ修くん。上手になってきたね」
 頭を撫でてやるとより必死に食らいついてくる様子が愛おしい。結構負けず嫌いなのだと思う。褒められたがりでもある。よしよし、いい子いい子。
「もふぉふぉあふふぁい」
「え?」
ぷは、と息継ぎをしてから、言い直す。
「子供扱いしないでください」
「子供じゃないか」
「子供にこんなことさせて良心は痛まないんですか?」
「ねえ今ちょっとイキそうだから後にして……」
 修くんは面倒くさくてかわいい。とってもかわいい。とっくに情が湧いている。
 ぴゅ、と無事射精した後、大きなベッドに二人して横になる。
「あーかわいい。俺たち付き合おっか」
「冗談はよしてください」
「うんごめん冗談。でも修くんも結構お兄さんのこと好きでしょ?」
「まあ」
「まあ?」
「顔は好きですね。それで決めたので」
「えっそんなイケメンかな俺。自覚なかったけど」
「僕は好きですよ」
 ごそごそと動かしていた手を止めた。止まった。貴重なデレにキスをしたくなり舌を入れたキスをした。
「…………ぁ、ん……」
 乳首を捏ねるとくすぐったそうに身じろぎをする。
濃厚なキスを続けながらボクサーパンツを脱がせ、既に硬くなりかけている可愛らしいおちんちんを揉んでやる。唇が離れると声変わりしたての不安定な声で喘ぎ始めた。
「あ、相川さ……っ、あ、あっ」
寝返りをさせ、尻をこちらに向けさせる。準備万端らしい健気な穴にローションを纏わせた中指を入れていく。
「あ、だめです、だめ……あっ、ぅ」
「だめじゃないでしょ、セックスしにきたんだから。ね?するんでしょ?セックス」
「あ、あ……はい、はい……します、あっ、あ、せっくす、します、あいかわさ、あ、っ……」
「頑張ったらお金あげるからね。よしよし……」
指を二本に増やす。ローションを足しながらゆっくり広げていく。乳首を舐めてあげながらクチュクチュとわざと音をたててやるときゅう、と穴が締まって悦んだ。
「もう、もう……だめです、あいかわさん、もう、」
「なんで?何がだめ?もうやめる?」
「ちが、も、がまんできな……はやく、おちんちんください……っ」
「すっかりスケベになっちゃったねえ」
指を抜き、修くんの手で広げられているそこに勃起したちんこをなすりつける。コンドームを手早く付けて、ローションをビタビタにまぶす。ぬるりと入っていく。修くんがふうふうと呼吸をする度に腸壁が蠕動する。気持ちがいい。腰が自然と動いてしまう。
「あ、あっあ、ぁん……や、だめ」
「駄目?本当は?」
「あ、あっぅん、やぁ、や……」
「嫌ならやめちゃうよ」
「んぁ……やじゃない、です」
「良い子」
頭を撫でながら奥を突いてやる。大事なものを慈しむように抱きしめてやる。衝動はすべて腰の動きにのせて、一定のリズムで解かされる。
薄い皮膜越しの射精。抱きしめていた身体を離すと涙とよだれでぐちゃぐちゃの顔が見えた。修くんは良い子だ。俺の衝動をすっかりぜんぶ食べてくれる。

三雲修は15才の中学三年生で、所属している界境防衛機関ボーダー玉狛支部に泊まると家のものに嘘をついて、しばしば援助交際をしていた。お金をもらって、見知らぬ男の人とセックスをしていた。
初めて見たネットの掲示板ではみんな嘘をついているようだったので、自分も当たり前のように嘘をついた。これくらいボーダー本部の有刺鉄線をペンチでこじ開けたのに比べればなんてことなかった。
「今日は玉狛でご飯食べてきます」
「今日は帰ります」
双方に嘘をついた。何故かバレなかった。週末だけの逢引きだったので、未来が見える能力者である迅も知らないふりをしてくれたのかもしれない。
「修くん」
おさむくん、と援交相手の相川は修を呼んだ。
「相川さん」
互いの冷たい、温度の無い声がベッドの上では熱く甘くなるのを、修は不思議だと思った。一万円札二枚でその温度はまた元通り冷たくなって、その繰り返しだった。稼いだお金は貯金した。特に使い道も無かったからだ。
どうして援助交際などを三雲修がやろうとしたのか、それは誰にもわからないのだった。ただきっかけは雨取麟児だった、のは確かだ。雨取麟児は妹の千佳に黙ってゲイビデオを修に見せた。細身の小綺麗な男たちが腰と腰を寄せて気持ち良さそうに声をあげている。入れられる方、ネコの役の人の顔がやたらに赤かったのが脳裏に焼きついた。やってみたい?と麟児は修に問い、修はいつもの冷や汗をかきながら、首を横に振った。そのときは戸惑いの方が大きかった。
オナニーをするときに麟児から見せられたビデオのことを思い出すようになったのはある程度時間が経ってからだった。自分で調べてお尻の穴で気持ちよくなる術を覚えた。本当は麟児に手伝ってほしかったけれど、もう麟児はどこにもいないのだった。近界に旅立ってしまった頼りになる近所のお兄さんは、修に役に立つことも役立たないことも余計なことも、いろんなことを教え込んでいたのだった。

「そういうことなんですけど」
相川に洗いざらい話してみたくなって話してみた。主に雨取麟児のことを。ただ近界の話は必要が無いと思ったので飛ばした。どこか知らないところに行ってしまった、血の繋がらない僕のお兄さん。
「へえ、じゃあ俺はそのリンジくんの代わりなんだ」
麟児の代わり。そうなのだろうか。修は考えこんだ。
「麟児さんとはセックスしたいと思ったことないです」
「嘘でしょ、だってさっき手伝ってほしいって」
「何もわからなかったので助言してほしいなと思ってただけだとおもいます。誰としたいかは……割とどうでも」
あはは、と相川は笑った。
「俺でよかったね修くん。こんな金払いのいい、清潔感もそこそこの相手見つかって。修くんが成人するまでは抱けるからいつでも呼んでよ。俺ショタコンだからそれ以降はちょっとわかんないけど」
「その前に僕が切ると思うので、大丈夫です」
あはは。じゃあ俺の話も聞いてよ。相川は語り出した。時々全部を燃やしたくなること。炎には希望が宿っているように思えること。でもそんなことを考えるのはきっと病気だと思うから、きれいさっぱり忘れるために修にいつも連絡を取るのだということ。
「ベッドで燃えてさ、こうやって冷めてさ」
またいつものように一万円札が二枚手渡される。
「健康的だよね。まあ未成年とだから犯罪なんだけど。放火よりよっぽどいいじゃん。そう思わない?」
「キャンプで焚き火でもすればいいんじゃないですか?」
「修くんが大人になったらしようか、キャンプ」
「大人にならないとしてくれないんですか?」
「普通逆か、あはは、やっぱり不健全だ。言ったでしょ、俺ショタコンだって。少年の修くんといっぱいエッチしたいんだよ」
「変態だ……」
「うん、変態のお兄さんとこんなことして、修くんは悪い子だね。俺にとっては良い子だけど」
「どっちでもいいです」
「修くんらしいな」
「病気が治るまで」
一緒にいてあげます。そう修は言った。キャンプで焚き火してくれるのかな、と相川は思いながら、ありがとね、とだけ言った。

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